「第65回毎日文化賞企画賞」に思う

文化の日(11月3日)に「第65回毎日文化賞」の発表があった。企画部門賞は2作品が受賞し そのひとつが

    監修・戸沢充則 『シリーズ「遺跡を学ぶ」』(新泉社・各1575円)

であった。監修の戸沢充則先生が 伊藤和史氏のインタビューに応じた談話に重要な事柄がありました。(以下一部WSより抜書きいたします。)
 「考古学がヘンに理屈っぽくなっちゃってね。遺跡と旧石器時代から近代まで、一つの遺跡を1冊で紹介する考古学のシリーズ。2004年の刊行開始から7年余で80冊に達した。企画のキーワードは「遺跡には感動がある」。資料そのものから本当のことを探し歴史を描く。これが考古学者の感動であり、夢です。みんなそうやってると思ったら、つまらない発掘報告書ばかり出てくる。あんなデータの羅列、一般の人には読めませんよ。そして遺跡は壊されるだけ。ここで一度『遺跡に帰ろう』と考えました」

 この『シリーズ「遺跡を学ぶ」』はオールカラー。写真と図表が豊富だが、記事は原稿用紙100枚ほど。見て楽しめ、短時間で遺跡のエッセンスがわかる。記録の精度を重んじるあまり、厚いばかりで無味乾燥になりがちな報告書とは正反対だ。
1953年長野県馬場平遺跡(矢出川遺跡の6kmの地点にある)での旧石器調査時の戸沢充則先生(左から二人目)「堤隆博士の著書より」


私は日本美術史を齧りながら「不思議な壁」にぶち当たることが多い。そして史料を求めるが正解が有ったためしがない。そこで現地・現物主義に徹することにきめ原点から辿りなおすことに致しました。これは考古学と立場を同じくした事になります。最近フと感じることがあります それは美術史が考古学の一分野かもしれないなあというおもいです。
天武朝を地方から見ようと日高市に参りました。この市は遺跡の上にあります。いたるところに遺跡があります。中でも黒曜石の遺物に興味を持ち調べてゆくうちに優れた著書に出会えました。それがこの著書です。

難解な解説書が蔓延る中 なんと読み易い「日常語」での標記 写真や図表が多い。236頁でありながら初歩の初歩から最先端情報まで網羅しています。これ一冊で黒曜石の専門家になれそう。著者は堤 隆博士。長野県北佐久郡御代田町「浅間縄文ミュージアム」の学芸主任を勤めておられます。私が日本美術史を齧りだしたのは 海外へのPR不足 幼児向けの情報伝達不足 この2点を改善したいからです。そのためにやさしい日常語での表現が必須と決めておりました。まさに堤博士の文章表現はその最良の「お手本」なのです。
その堤 隆博士もこの『シリーズ「遺跡を学ぶ」』の2冊を担当しておられます。


「矢出川遺跡」の方は主にご専門の「細石刃(黒曜石)(註)」にスポットを当てた解説書です。 
旧石器時代ガイドブック ビジュアル版」は 3〜4万年前から1.6万年前とされる旧石器時代を写真やイラストを多用してビジュアル版で小学生から大人まで 入門書としてもNICE ONE でしょう。
もっと大人向けには最近発行された こちらをお勧めいたします。

私達は「ホモ・サピエンス」の一員です。その立位置を確立する上でもその成り立ちを確実に把握する必要はありませんか?祖先が辿った そして生きた足跡はどうですか?
散歩の途上で足元に「ドングリ」が落ちていませんか?その「ドングリ」はかって私達の祖先の主食だった時期がありました。少なくとも1万年近い年月を生きる糧となったことを認識しておられますか?お子さんとそんな話題を話し合ったことがありましたか?その「ドングリ」をどのようにして食べたのか 私達の祖先の英知を窺い知る事は必要ではありませんか?今の食生活に繁栄している「英知」です。

この『シリーズ「遺跡を学ぶ」』は軽やかに応えています。


現在 遺跡は都道府県や市町村の機関が発掘し調査報告書を書いております。その報告書は図書館にも置くことになっている筈です。一度お住まいの中央図書館を訪れどのような調査報告書が書かれているのかご覧ください。そこに「感動があるか」どうぞお確かめください。ささやかでも歴史の一ページを語っていますでしょうか。単に上役の印を貰うためだけの報告書でないことを祈ってやみません。皆さんの血肉を分けた税金で調査されたもので 遺跡も遺物も行政機関のものではなく『人類の宝』なのですから。


(註)【あずき・ちしき】
「細石刃」
「矢出川遺跡」の表紙の写真がそれです。
カミソリの替え刃のような小型石器で柄に複数並べて装着し槍として使用されたと思われます。
原石は主に黒曜石が用いられました。刃の切れ味が鈍ると新しいものと交換されたようです。柄には動物の骨や枝が使われたらしい。しかし弓矢が使われ瑠ようになると急速に姿を消し その時期が土器の使用と重なり「縄文時代」への移行にかさなります。